61年目の真珠湾


ランチから臨む真珠湾。小さな美しい湾でしたが、天然の要港ですね。

1941年12月7日(現地時間。日本時間では8日)から61年目のその日を、小職は、真珠湾で迎えました。
 小職がその日そこにいたのは、真珠湾にある「アリゾナメモリアル・ビジターセンター」で行われる国立公園庁主催の「パールハーバーメモリアル」、つまり、追悼式典に遺族として招かれたためです。
 小職がアリゾナメモリアルに到着したのは午前5時50分。まだ夜明け前の暗い時です。「開場は6時ですが、6時30分くらいに来て下さい」とアリゾナメモリアルの広報官ブラッドに事前に言われていたので、早めにタクシーを使ってホテルを出たのですが、早くつきすぎていました。いつもは「The Bus」ばかりで「移動には時間がかかる」と思いこんでいたためです。が!ビジターセンターのゲート前には長蛇の列が!後から後から、来るわ来るわ!
 警備のために米海軍から水兵が5名、女性の士官が2名来ていました。
 小職は「A Matter of Honor」と呼ばれる「客人」ですから並ぶ義理はございません。ですから、オフィスに行って館長を表敬訪問したり、広報官のブラッドに「来たからね」などと挨拶したりしていました。
 開場5分前には200人くらいが列をなして並んでいました。いやな予感がしました。もしかしたら、この追悼式典に来たのはとんでもない間違いではないかという思いがちらりと。老いも若きも並んでいます。老人の中には介護用の手押し車や車いすの方もたくさんいます。何か恐ろしいことが起こるような気がします。

暗い頃から並んでますやろ、これがアメリカです。

米海軍の儀仗隊。早朝から練習していました。0635頃です

30分後にはこの人だかりです。真ん中の左の人物はアリゾナメモリアルのヒストリアン、ダニエルです。この式典を実質仕切っていました。アリゾナメモリアルの実力者です。

 アメリカという国は恐ろしい国やな、0730に式典が始まって、ずっと小職はそんなことを考えていました。
 小職はアリゾナメモリアルのヒストリアン(歴史研究担当官)のダニエルに「ここに座って参加して下さい」と、Matter of Honor の席の中央、前から二番目の席を用意されました。抜群にいい席です。「えらい大事にされてますねんな、わし」と思わず呟きます。
 いきなり壇上に太平洋空軍の伍長がひとり、壇上に上がって何か歌い出しました。何の歌かわかりませんが、何やらナショナリズムたっぷりの歌のようです。
 その次は、Hawaiian Blessing、ハワイ語の祝福、つまり、ハワイのお祈りです。
 驚いたのが、ハワイでも「法螺貝」を吹くということです。死んだじいちゃんを思い出しました。 


Hawaiian Blessing
左が、カフ カウイラ クラーク氏、右が、カフ カマキ カネヘレ氏。
法螺貝を吹いたりするアシスタントにケハとカヘキリの二少年。
この四方に後で挨拶しましたが、とてもいい方でした。小職を祝福して下さいました。


左:アリゾナメモリアルのSuperintendent(館長)ダグラス.A.レンツ氏
右:ダグラスと打ち合わせをするHistorianのダニエル.A.マルチネス氏。
ダニエルとは「友達」になりました。

 さてさて、「ウェルカムスピーチ」としてダグラス館長のスピーチが始まりました。キーワードは「わたしたちは忘れない」と「パールハーバーサバイバー」。パールハーバー、つまり真珠湾攻撃の体験者というのは、とても尊敬される人のようです。ダグラスはちゃんと小職のことも紹介してくれました。
 このあたり日本とえらい違いますね。
 その後、従軍牧師(中佐)によるキリスト教式の祈りを捧げ、黙祷を捧げます。その際に、真珠湾をUSSポートローヤルが登舷礼をしながら通過、頭上をハワイ州空軍の戦闘機(機種不明、テントの中では音だけしか聞こえませんでした)が低空飛行で通過。
 黙祷中に真珠湾攻撃を再現しているんでしょうか、ものすごい迫力です。おそらく時間も攻撃が行われた時間ちょうどだと思われます。日本の「慰霊飛行」とはえらい違いです。
 この時、アリゾナメモリアルの職員や軍人が敬礼してましたけど、なんやアメリカの敬礼ってだらしない敬礼ですね。日頃仕事で敬礼(ちゅうか答礼ばっかり)している小職の方がピリッと締まった敬礼しまっせ。
 黙祷後に、陸海空海兵隊四軍の下士官兵によるカラーガード隊が旗手として入場。
 その後パールハーバーサバイバーの遺児であるという人(なんや格好ええおっさんでしたが)が壇上で講演。段々盛り上がってきます。
 その次になんや日本の宗教関係者が壇上に上がりましたが、代表は宗教的には偉い人らしいですが、人の心を持ち合わせていません。この人たちは、慰霊祭出席を隠れ蓑にした単なる観光客のようです。その証拠にアリゾナメモリアル本体で非常に失礼なことをしていました。こういうのを日本の恥といいます。小職は非常に恥ずかしい思いをしました。また、同胞が異国で困っていたり、泣いていても無視していました。この人たちを決して小職は、宗教者だと思いません。何だったら、勝負しますか?です。


演壇の下に捧げられていた花輪。「わたしたちは決して忘れない」の文字が。

 さて、ここで、本日のメインイベントです。
 「Medal of Honor Recipient」 真珠湾攻撃の時、米海軍カネオヘ飛行場で勤務し、受勲された John Finn 氏の登場です。じいちゃんです。
 もう、会場は割れんばかりの拍手です。口笛が鳴り、絶叫が響きます。数百人の参列者のほとんどがスタンディングオベーションで迎えます。アメリカンヒーローの登場です。
ジョン.フィンじいちゃん。ヒーローです。
 ジョン.フィン氏は当時のことを身振り手振り入りで話します。何言ってるかわかりません。ただ、日本軍がやってきて、たくさん死んで、自分は応戦した、と。要約すればこんな話をしていたようです。が、ジョン.フィン氏は、とてもジョークが好きです。何度もジョークを言います。そのたびにまるで「ソープドラマ」(30分もののコミカルなドラマ。お昼によくやっている。あと、NHKでも夕方に放送していますね。「笑い屋」のおばちゃんの笑い声が欠かせないドラマです。小職は「ファミリータイズ」が好きでした)のように「WAHAHAHAHA!!!」と会場は大爆笑に包まれます。じいちゃんはますます乗って話が終わりません。
 ジョン.フィン氏は式典が終わった後、ハワイのマスコミに囲まれていました。翌日の新聞にも掲載されていました。(小職は12.6の某新聞の夕刊に載りましたが。小さく対抗)

 式典はその後、粛々と続きます。
 パールハーバーサバイバーであるベテラン(退役軍人)による献花(その日そこに係留されていた戦艦を示す掲揚台があります。そこに献花します)。
 儀仗隊による礼砲、エコータップ、ダグラス館長による各艦の来歴紹介、etcetc…‥。
 最後は後奏曲として「アメリカ ザ ビューティフル」を米太平洋空軍軍楽隊の男女の伍長のリードと米陸軍第25歩兵連隊軍楽隊の伴奏で、参列者全員で唄います。


パールハーバーサバイバーたち。彼らももちろんヒーローとして大切にされていました。日本と大違い。


プログラム。内容が横になってごめんなさい。

 さて、その後、カマキ カネヘレ氏、カウイラ クラーク氏とクラーク氏の二人の息子、ケハくんとカヘキリくんの四人、ダニエル、小職、パールハーバーサバイバーのご婦人二名、それとおまけで物見遊山気分でついてきたのか宗教関係者軍団は、ランチでアリゾナメモリアル本体に向かいました。つまり、USSアリゾナの真上にです。
 そこで彼らは祈りを捧げました。
 何とも恐ろしい空間です。死者の上に立つのです。いやな気分です。しかし、かれらもまた「仕事で死んだ」のです。小職は離れてひとりで祈りを捧げました。


半旗が掲げられているアリゾナメモリアル


45小隊3番機が雷撃したと伝えられるネバダの係留ポイント

ここからは非常に個人的なことなんですが、アリゾナメモリアルからの帰り。ランチで真珠湾を横切るのですが、そのときにネヴァダの係留ポイントの横を通り、そのまましばらくネヴァダと並行するように進むのです。そこに何があるのかといえば、45小隊3番機、つまり、植田米太郎、長井泉、武田友治(官制順)の三人の墜落(撃墜)ポイントとされる海域の前を通るのです。小職の今回の布哇渡航は「伯父を連れ帰る」のが一番の目的です。
 伯父も彼らも海軍軍人です。軍人を弔うのには何が一番似つかわしいか。経文か?経文ならビジターセンターでアメリカ人に不思議そうな目で見られながらしっかり読経しています。やはり、軍人には軍人の作法があると思います。
 小職は、米海軍のランチに乗りながら、「海ゆかば」を独唱しました。

海ゆかば
水漬く屍
山ゆかば
草むす屍
大君の
辺にこそ死なめ
かへりみはせじ


ビジターセンターから45小隊3番機の墜落地点をされる海域を臨む

 感傷のせいでしょうか、唄いながら涙が止まりませんでした。
 伯父の死に何か理由を付けようとは思いません。理由を付けようと知ればそれはことごとく後知恵になります。
 伯父たちはただ、職務を遂行し、その結果、死んだのです。
 それ以上でもそれ以下でもありません。
 国家のためであるとか、何であるとか、大義名分などではなく、ただ、それが仕事だから、その職務執行に選ばれたから、それがたまたま与えられた順番だったから、任務を遂行し、結果的に戦死したのです。
「伯父さん、一緒に日本へ帰りましょう」
 小職は、凪の真珠湾に向かってそう呼びかけました。

おまけ