みなさんを証券会社の舞台裏にご案内します-No.3


   11億   転換社債の「親子どんぶり」

4月13日   午後1時
 「おい!大田!小川社長に、トヨタ5万株信用取引で買ってもらえ」
   「課長ダメです。今入っているタネ玉がトヨタですから親子ドンブリになります。」
 「株株はだめか・・そしたらタネ玉を同じトヨタのCB(転換社債)にしてから、信用でトヨタいけ!」
 「CBだと掛け目が上がりますのでもっと買えます、6万株はいけますよ」
 「よし手数料50万読んどくぞ」
 「わかりました!」


   信用取引とは現物株を担保に、お金を借りて現物の評価の約2〜3倍の株が買えるシステムである。
 ここぞという時にたくさん株を買えるメリットのかわりに半年で決済しなければならないし、その間の金利を負担しなくてはならない。
 ただしその時の現物株(タネ玉という)が同じ銘柄の時は「親子ドンブリ」といって建てられない、つまり買えないという事である。
 その場合の手段としてタネ玉を同一銘柄の転換社債に代えてしまうのである。
 転換社債とは文字どおり株に転換できる社債の事で額面が100円で発行される。株との転換価格というものが決まっており現在の株価がその値段であれば同じ金額分の株と変える事ができる。
 また株価が上がれば100円の転換社債の値段自体が110円とか120円とか連動して上がってくる。
 前出のワラントと違って100円で買った人は、満期までもてば元本は保証されなおかつ年間2%ほどの金利が入ってくる。
 つまりワラントは満期まで持てば0になるのに対して転換社債はもとの額面の100円で償還される。
 100円以上で買った人は満期迄持てば損であるし、100円以下で買った人は利益となる。「準安全君」である。
 本来は株の値上がり性と債券の安全性を兼ね備えた大変優良な商品であるが、それはあくまでも長期間持ってもらう事ができて初めて言える事である。この例のように全く株と同じ考えであれば、結果もまた株と同じになる。
 とにかく証券マンは客の都合どおり長期ではもたせてはくれないのだ。

12億   無茶な資金調達をした銀行の末路

4月14日  午後1時
 「太田!北海道銀行のCB2000万、はまったか?」
 「まだなんです」
 「すぐ誰かにはめて、早く伝票だしておけよ。」
 「しかし課長、客も最近は銀行のCBばかりで飽食状態ですよ。つきあってもくれません!」
 「それはお前のトーク不足だ!逆に『銀行は安心だから』と言ってうまいことはめこめよ。無理だったら自分の貯金をおろしてでも買うかどうかしろ!」


 この項目は筆者が声を大にして言いたい今の日本が抱えている大問題である。
 平成元年ごろから意識し始めたいわゆる「BIS規定]という毛唐の作ったわけのわからないルールのために銀行は海外に拠点をだすために自己資本比率を預金残高の10%以上クリアしなければならないハメとなった。
 自己資本比率とは、その銀行の預金残高が仮に1億円あって、銀行自体の資本が1000万円だとすると10%、500万円だったら5%となり、預金と資本の比率である。当然この比率が高いほど銀行がつぶれにくいので預金者にとって安心感が大きい。ちなみに欧米の金融機関はこの比率が30%以上がザラである。
 その当時で水準をクリアできていた国内銀行は海外業務に強い東京銀行ぐらいであったように記憶している。
 その他に上場している銀行は約70行ほどあって、その他の銀行はにわかのルール改正に大慌てをしたわけである。つまり現状のままであれば、新たに海外に支店を出せないばかりか、現在出している支店の存在すら危なくなるからである。
 そこで、手っ取りばやく自己資本比率を高めるために考えだされたのが、新発の転換社債の発行である。
 一行あたりの一回の募集が500億円単位であったので、仮に30行が発行したとしても、1兆5000億円の資金が、このわけのわからないルールのために転換社債に流れこんだ(流れこませた)のである。
 おりしも当時はダウが3万9000円のつけた後の下り坂であったので、銀行株自体の値段も例外ではなくどんどん下がっていく過程の出来事である。
 つまり100円の額面で買っても株価が下がっていくために、90円台、80円台のいわゆる額面割れの転換社債が世の中に蔓延したのである。
 さらに需給の関係から考えれば、本来、株にむかうはずの1兆なにがしかの金が額面割れの転換社債に行ったために株式相場の弱体化を招いたと言っても過言ではない。
 つまりあの株のクラッシュを産んだ元凶こそまぎれもない、毛唐の作った「BIS規定」でありまたそれを生真面目に死守しようとした銀行そのものである。
 脇役として助けた証券会社もまたそうである。
 株式手数料の激減に伴って、転換社債の引き受け手数料は当時としては喉から手がでるくらい欲しかったに違いない。
 仮にその事が株式市場の需給のバランスを崩す事が分かっていたとしてもである
 悲しい性よのう......


13億   転覆 「仕切り丸」

4月15日  午後9時
              「川崎代理、支店長がよんでるぞ!」
「おーいもう客が寝てしまう時間だぞ、まだ伝票出ないか?」
「みんながんばってるんですですが、まだ変わってません」
「どうするんだ!おい!大森課長、おまえんとこが数字さえきっちりあげていればこんな事はせずにみんな早く帰れたんだ!仕切らすような営業ならさっさとやめてしまえ、どいつもこいつも無駄飯食いばっかりだ!営業課長も代理も全員クビだ!」


 普通のサラリーマンが家に帰って一杯やろうとしている時間の話である。
 8億の項で出てきたいわゆる「仕切り玉」のクライマックスシーンである。
 主役は支店長、脇役は営業課長、エキストラは営業マンたちである。
 女優である証券レデイはとっくに帰ってから幕開けである。なぜ営業マンがエキストラなのかは、彼らはすでにセリフがなくうつむくだけで顧客ファイルを単調に繰るだけの作業であるからである。
 つまりだれが座っていてもできる役である。
 シンと静まりかえった支店のなかでペラペラと意味もなく顧客ファイルをめくる音だけがしている。
 時折営業課長が「どうだ、少しはつまったか?」と判でおしたような質問をするだけ。
 7時くらいまでは、無駄とわかっていても客に電話するものもいたがさすがに、9時ともなるとファイテイングポーズすらとれない状態である。そしてこのころになると、全員が同じ事を考えだす。
 「早くゴングに救われたい」と。
 ゴングというのは、株式の注文伝票の最終提出時間のことで、「ラインが切れる」という表現を使う。
 現在はどうか知らないが当時はその日の株の注文の受け付け(客の割り振り)時間が無理を言えば9時ごろまで待ってくれていた。(待たなくてもいいのに.....)
 つまり午後3時までの立合時間内に買った株の、客の特定化をするのに9時まで猶予があったわけである。
 だいたいこの時間までかかる株とはたとえば大引けが500円の三菱重工を520円で数十万株仕切っているような場合で、客が「ハイ買います」と言ったとたんに何十万円損をする性質のコワイしろものである。
 ともあれこの結末はだいたい支店長のもっているA客で、はめてしまって終わる事になる。
 もっともこの会話がでるころには支店長室でもうすでに客に連絡をとって処理が終わっている場合が多い。
 買い手のつかないままの株の注文を本社に出すと支店の名誉ひいては支店長の名誉が傷つくからである。
 営業マンの方も、「だいたい処理がおわっているな」という事は上司の顔色で判断している。
 それを百も承知でうなだれ続けるのだからかなりの忍耐力と演技力が要求される。
 これが大人の仕事か?まったく.....


14億   大きなお世話の成り行き買い

4月20日  午後1時
 「太田くんか、わしやけども、今日1050円で買いの指し値しとった三井不動産あったやろ。今、1070円に下がってきたから、指し値もう10円下げとって。悪いなあ」
 「社長、本当にこの株が上がると思っているなら何で指し値するんですか。どうせどかーんと上がると思ってるんでしたら、このへんの10円や20円は関係ないじゃないですか。男だったら堂々と成り行き買いでいきましょうよ。社長らしくないですよ!!」
「そうかあ指し値は男とちゃうか、よっしゃまかせるわ成り行きにしとって。」
「さすがは社長、ありがとうございます。出来値はまた報告いたします。」
 「よっしゃ、よっしゃ。」


 元来、株の売買に男も女も関係ないはずであるが、投資家にはプライドの高い人(特に社長)が多いらしく、けっこう「男らしくない」と言われるとグサッとくるものらしい。
 よく「女々しい社長は社長らしくないです!ぼくはそんな社長は見たくないです!」と言ってかならず注文をいただいていた、ある鉄工業の社長を思い出す。
 この場合なぜ証券マンが「成り行き」注文にこだわるかというと、要は自分の手数料の数字が読めるからであって決して「男らしい」とかそんなロマンめいた発想からではない。
 要は銭勘定がはっきりできるため、だけである。
 心理的に一番もどかしいのは、指し値が入りそうになるとどこで見ているのかサッと電話してきて買い注文の値段を下げる客である。
 ほぼこの客の注文は「できるな」と読んで、くだんの手数料申告をしているわけで値段を下げられるとおもわぬ計算違いとなる。
 客もよく知ったもので指し値変更の時だけ女子社員に連絡するテクニシャンもいた。
 これはたちが悪くてこっちは本当に値段が入ったと思っているだけに後でそれを女子社員に聞かされると、即死状態になりしばらくたたずむ事になる。
 よく3時くらいに株注ボックス(株の注文の出来、不出来の結果がわかる伝票が入った箱)の前で化石のようになっていた営業マンを思い出す。


15億   だれが最後か仕手の結末

4月30日  午前9時
 「株式部の場電状況だ!全員聞けよ!!」
 「えー株式部です、現在東急電鉄にN証券300万株の成り行き買い、続いてD証券500万株の成り行き、続いてN証券500万株の成り行き」
 「聞いたとおりだ全員、東急電車が発車する前に全員乗りこめ!いいな今月は東急一本で行くからな!わかったか!」
 「はい!わかりました!」


 ご存じの仕手株戦の実況中継である。この時の東急電鉄は1000円近辺でウロウロしていた株であったのが、あれよあれよの間に5500円までいった事は記憶に新しいと思う。
 株というものはそもそも永久にあがり続けるものであれば誰も損する者はいないのである。
 しかし現実はそうではなく、悲しい事に神様は同じ東急株を1000円で買う者と5500円で買う者とに分けてしまうのである。
 仕手株とはその会社の業績が上がるとか将来性などまったく無視して、あるネタをぶち上げ(ネタ無しでやる場合もあるが)、単に需給戦に持ち込むものである。
 上手にやれば短期間に何倍も儲かって、結構ドキドキものの動きをする。よって根っからの仕手株ファンというのも結構存在する。この仕手株ファンというのは阪神ファンと共通するところがあって、「やられてもやられても、懲りずに向かってくる」性質を持っている微笑ましい集団である。
 仕手を仕掛ける方(仕手筋)からすれば、一年に一回相場をつくれば何十億と儲かるので決してその行動はアセらずにやる。
 まず水面下何ヶ月間もでジワジワと目立たないように安い値で1000株、2000株とコツコツと買い集めていってついに手持ち玉が何百万株になった時に、適当な材料などを発表して舞台の幕を一気に上げるのである。
 この時の幕上げ係が俗に言う「提灯買い」である。よく「あの銘柄にちょうちんが入った」とかいうあれである。
 とにかく一旦提灯がついたら、各証券会社はそれに乗り遅れまいとして必死に成り行き買いをいれてくるものだから、相場は当然連日の「板寄せ」状態となり値段がつかないまま株価はドンドン上がっていく。
 登山でいえば七合目か八合目かにきたころに仕手側はそろそろと動きだす。
 すなわち手持ち玉のいくらかずつを先程の大手証券会社の成り行き買いにぶつけていって売り捌くのだ。
 株価がどんどん上がっても仕手側としては、持っている株を全部売りぬけなければ勝った事にならない。
 まして相場の需給に影響を及ぼすだけの大きな株数を自分で抱えているだけに「売り」に関してはとくに慎重にやる。
 なぜなら御本尊(仕手筋本体)が売ってるとわかっただけでその相場は終焉を迎えることになるからである。
 そういった理由からどこから売りを出しているかわらないように、売り注文を出す証券会社を分散させる。場合によっては支店まで分散させる気の配り方である。
 そして全部売り切ったあとでまだ世間がワイワイ騒いでいる相場をどこかのリゾート地でニンマリ眺めているのである。
 何にせよ損するのは一番騒ぎが大きい八合目近辺で飛び乗った一般投資家である。
 当然被害者の数ももたいへんな人数であるし金額も相当なものだ。
 このたびの東急電車は高いキップ代であった。

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